新高等学校学習指導要領『言語文化』のバトンをつなぐ 連載企画 第1回

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高等学校新学習資料要領 『言語文化』のバトンをつなぐ 連載企画 第1回

教育情報

2022年度よりスタートする、新「高等学校学習指導要領」。その中でも、国語の『言語文化』に注目し、ドルトン東京学園中等部・高等部の沖奈保子先生に情報や指導のポイントなどをまとめていただきました。全6回の連載でお届けする予定です。
第1回の今回は、これまでの『国語総合』と『言語文化』の具体的な違いや、『言語文化』のバトンをつなぐこと、古文を例に指導のご提案をお伝えいただいています。ぜひ参考になさってください。

『言語文化』のバトンをつなぐ

沖 奈保子先生
ドルトン東京学園中等部・高等部 教諭(国語科/探究コーディネーター)。島根大学教育学部嘱託講師。「古典はおもしろい!」を合言葉に、古典作品と現代社会をつなぐ授業実践を日々模索中。
著書に『高校国語 アクティブラーニング』(学陽書房 共著)。他、『高校の国語授業はこう変わる』(三省堂)、『高等学校国語科授業実践報告集』(明治書院)等に授業実践を掲載。また、国立教育政策研究所『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』において、評価規準、評価方法等の工夫改善に関する調査研究に協力。

連載企画 第1回

1.はじめに(沖先生より)

こんにちは、初めまして。いよいよ来年4月から新課程『言語文化』がスタートします。
この連載では、新課程『言語文化』の授業について実際の授業現場を想定した提案をしていきます。

2.これまでの『国語総合』と『言語文化』の具体的な違いは?

現行の『国語総合』から『現代の国語』『言語文化』へと科目構成の見直しが図られた要因の一つに、長年にわたり指摘されている高校生の「古典嫌い」があります。近年の調査(※1)でも古典に否定的な感情を持っている生徒は、約7割といわれており、「古典は本当に必要なのか」という議論があちこちで起きています。

『言語文化』は、高等学校における「古典の学習について、日本人として大切にしてきた言語文化を積極的に享受して社会や自分との関わりの中でそれらを活かしていくという観点が弱く、学習意欲が高まらない」(※2)という課題の解決に向けて、上代から近現代までの我が国の言語文化への理解を深めていく科目として新たに設定されています。

「上代から近現代までの我が国の言語文化」ということは、古典分野だけでなく近代以降の文学的文章も対象になったということです。「言語文化」の標準単位数は2単位。「古典」及び「近代以降の文章」も含まれます。つまり「古文」「漢文」と「小説」分野、それだけでなく「随筆」や「詩歌」なども対象になります。

3.テーマは『言語文化』のバトンをつなぐ

長年高校国語は、江戸時代までの文語体で描かれた作品を「古典」、明治時代以後の作品を「現代文」とする分野のすみ分けがされていました。
しかし新課程では古典作品に加えて小説、随筆、詩歌…とこれまで「現代文」分野で扱っていた多くの素材を『言語文化』の時間に扱うことになりました。「これらをすべて週2単位で?」「一体どうやってそれぞれのジャンルの教材をこなすことができるのだろう?」「古典文法や漢文の句法だけでも精一杯なのに、小説分野も扱うことになる。どうやって限られた時間で指導するの?」といった疑問がわいてきます。

今まで通りの授業を「言語文化」の中ですべて行うことはおそらく不可能です。私たち国語教員一人ひとりに『コペルニクス的転換』が必要になるのです。

たとえば、高校1年生が、1年後に我が国の言語文化に対する理解を深め、言語文化の担い手としての自覚が持てている姿をイメージします。そのイメージはどのような授業を行えば達成できるでしょうか。どのような教材から学んでいけばいいでしょうか。つまり扱うべき教材から考えるのではなく、達成する学習目標から授業を組み立てるのです。

まずは上代から現代までの「つながり」にふれるのはどうでしょう。言葉や文化が千年以上途切れずに現代に生きる私たちに届いているのを知ることから始めてみる。当時の人々が見たり考えたり感じたりしたことを当時の言葉を通じて知り、その共通点に気づく。「千年経っても人は同じだね」だったり、「千年も経つとだいぶん変わっているね」だったり…。もしかしたら失われた文化や風習を発見するかもしれません。言葉や文化は意識してつないでいかないと知らない間に失われてしまうことを学ぶきっかけにもしたいものです。それが、「言語文化の担い手としての自覚」へとつながっていくからです。

4.スタートは「古典はそんなに難しくないかも」

古文の入門教材の定番「児のそら寝」(※3)を例にあげてみましょう。注や現代語訳を参考にしながら、内容を読み取っていきます。音読や朗読、チームで簡単な寸劇などを行うのもおもしろいでしょう。まずは身体を使いながら古典のリズムに親しんでいきます。

この作品のテーマは「笑い」です。最終文は「僧たち笑ふことかぎりなし。」と僧たちがこのうえなく笑ったことが描かれています。授業ではこの場面について「なぜ、僧は笑ったのでしょうか?」や「この話のおもしろさはどこにあるでしょうか?」と、笑いに注目した発問がよくなされるのですが、正直現代の私たちにとっては、「かぎりなし」というほどではないと感じます。

ではなぜ、僧たちは爆笑したのでしょう? その当時の人たちの共感が得られたのでしょうか。そこに当時の文化背景や、現代との違いが浮かび上がってきます。

「最近、爆笑したのはいつ?」と聞いてみるのもよさそうです。クラスのみんなの「笑い」をピックアップする中で、現代と古典の世界の「笑い」の違いが明らかになると同時に、「児のそら寝」の時代の笑いの共通点が見えてくるかもしれません。いつの時代も変わらない喜怒哀楽がある。人間の普遍性にふれた時、「古典はそんなに難しくないかも…」と感じるのではないでしょうか。

(※1)中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会国語ワーキンググループ第4回配付資料(平成28年2月19日実施)
資料6 高等学校国語科の科目構成について(mext.go.jp)
(※2)【国語編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説
【国語編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 (mext.go.jp)
(※3)『宇治拾遺物語』巻第一


くしゃみをしたら、「Bless you!」と言われたけれど…。
古代の日本にも同じように解釈していた時代があったよ。くしゃみに関する今と昔の物語を見てみてよう。

参考:「進研WINSTEP Core 国語1 古典編[新課程版]」UNIT1「現代の生活との共通点・相違点」

2021年12月13日 公開


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