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2022年度よりスタートの「高等学校学習指導要領」。その中でも、国語の『言語文化』に注目し、ドルトン東京学園中等部・高等部の沖奈保子先生に情報や指導のポイントなどをまとめていただきました。全6回の連載でお届けしております。
最終回の今回は、「言語文化」のめざすところを考え、現代の視点で古典を読み解く授業実践をご紹介しています。ぜひ参考になさってください。
『言語文化』のバトンをつなぐ
連載企画 第6回
「言語文化」をもっと自由に!生き生きと!
1.あちこちの「言語文化」
あわただしく過ぎた1学期。夏休み前、「言語文化」の授業を振り返った時に、扱えていない分野があることに少し焦りを感じています。コンピテンシーベースとはいえ、小説・古文・漢文の素材を扱うには予想以上に工夫が必要で、このコラムの第2回で述べたとおり、やはり授業者側のコペルニクス的転換が求められていると感じるところです。しかも「言語文化」の授業の背後に大学入試の姿も捉えねばならず、モヤモヤしたまま夏休みに突入しました。
先日、区の資料館で養蚕業に関する解説会を伺った折のこと、世田谷区の養蚕農家と群馬県の養蚕集団との関係について、学芸員の方が詳細に説明をしてくださった。お話を伺いながら、大正時代に群馬と東京の養蚕農家との交流の記録はどこに残っているのだろうと大変気になり、終了後、学芸員さんに直接伺うと、意外な答えが返ってきました。
「言語文化」が目指すところは、文学的な素材だけでなく生活のあらゆるところにある文化的言語を素材とし、この国の人々の暮らしの中に存在する言語を通じて伝統と文化を学び、人々の生き方を通じて考えを深めることです。その点からもこの繭額は歴然たる「言語文化」の素材と言えるでしょう。
新科目「言語文化」はまさに、文学の中だけでない生活の中にあった言葉も学習の対象にしているのです。
2.再現された文化の身体化 ―― 現代版『伊勢物語』絵巻を作る ――
(1)歌物語と現代をつなぐ ―― 『伊勢物語』
「『古典を学ぶ意義』を具体的な作品を例に挙げながら、自分の言葉でまとめること。」それが今年度の本校の「言語文化」の年間目標です。1年間の古典の学びを通じて、自分にとって古典とは、古典作品とは何かを考えて形に残してほしいと思いこの目標を立てました。 初めての古文の単元で選んだ題材は『伊勢物語』。他作品と比較して親しみやすく生徒からの人気も高い作品です。第六段「芥川」第二十三段「筒井筒」の内容を読解しそれを通じて当時の結婚制度をまとめた後、『伊勢物語』の世界を現代に再現すべく「伊勢物語絵巻」を作成することにしました。
リメイク版の作成の前に、授業で扱った二つの章段以外のできるだけ多くの物語に触れてもらうために、1コマ授業時間をとり『伊勢物語』の世界に浸ってもらった。しばらくすると、あちこちから「え?」とか「うそ?」など驚きの声や、「あ……」といったため息が漏れ聞こえてくる。授業終了前に、近くの人と感想を交流する時間をとったところ、生徒がみな堰を切ったように話し出したのをみて、1100年を超えてもなお色褪せない作品の力、人間の本質を描いた作品なのでしょう。リメイク題材としてはもってこいです。次の時間にそれぞれに章段を選んでもらいました。リメイクの際は、原文にある和歌はそのまま使い、和歌と物語のつながりを意識するように指示をしました。
この日の生徒の振り返りの記述に、「言葉は変わっても、感情は変わらない、人が人を想う気持ちは1000年前も同じだ」とあった。
(2)絵巻を読み合う
作成した作品は、奉書紙に筆を使って清書し、「絵巻キット」を用いて、巻子にまとめました。全員の作品がそろったところで、相互評価を行いまいした。
絵巻がなければ、それらの行動様式は生まれなかったはず。絵巻という文化的ツールを用いることでこんなにも豊かに当時の世界観を味わうことができるのだな……と、うれしい気持ちになりました。
(3)「言語文化」をもっと自由に
それは冒頭に触れた「絵馬」や「繭額」だけでなく、寺社一つとっても、境内にある石碑、おみくじの文言、祈祷の祝詞など、あらゆるところに日本の文化を伝える言葉にあふれている。
授業者である私たち自身が、言語文化を再発見し、出会いを自ら楽しみ、生徒たちへとつなぐ懸け橋になれるといいのかもしれません。まずは授業者が、ニコニコ、ワクワクできることをやってみるのも有りなのかもしれません。
2022年9月28日 公開
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