研究会レポート(公共)『これからの地理総合・歴史総合・公共のご指導を考える会』

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2022年11月5日 開催 研究会レポート(公共)
『これからの地理総合・歴史総合・公共のご指導を考える会』

2022年11月5日(土)、東京都立向丘高等学校 久世 哲也先生をお招きし、オンラインにて「これからの地理総合・歴史総合・公共のご指導を考える会」を開催いたしました。ご講演の内容をレポートいたします。

研究会の詳細

講師紹介

久世 哲也(クセ テツヤ)先生
東京都立向丘高等学校 主任教諭。公共担当。
2009年千葉大学法政経学部卒業、江崎グリコ株式会社(総合職)入社。2013年江崎グリコ株式会社(総合職)退社、東京都入庁。2017年度東京都教育委員会職員表彰受賞。2019年度文部科学大臣優秀教職員表彰受賞。2016年度より法務省 法教育推進協議会 委員を務め、2021年度より東京都教育委員会大学院派遣研修により東京学芸大学にて新科目「公共」における法教育の実践に関する研究を行う。

研究会レポート(公共)

講演の主な内容

  • はじめに
  • 実践(1)
  • 実践(2)
  • おわりに

はじめに

私はこれまで受験を意識する環境で授業を行うことが多かったですが、受験に直結するような受験テクニックではなく「本質的な学びをどう実現するか」ということを常に考えてきました。進学校においても「学びそのものや、そのおもしろさ」をどう示すのか、ということがカギだったと思います。公共の授業で、その「本質的な学び」を実現するためには、公共の扉における「思考実験」の扱い方が重要になると考えています。新学習指導要領では、思考実験を「概念的な枠組みでとらえて考察する活動」と位置付けていることから、思考実験は高校生に「思考力・判断力・表現力」を身に付けさせる手段になるといえます。思考実験は、高校生に既有の知識やこれまでの生活とは異なる未知の文脈をもたらす可能性があり、より深い学びを実現する可能性を秘めているものだと考えられ、「見方・考え方」の実現にも資するものだと思います。今回は、大項目Aの内容を中心とした「見方・考え方」を「習得」するタイプの授業実践について報告します。今回の実践で私が意識したのは「他の大項目への接続」というところです。大項目Aが独立したものにならないよう気を付けました。

実践(1)

最初の実践例です。

公共の扉を「トロッコ問題の紹介」で終わらせないために「類推」させることを意識して取り組みました。授業でトロッコ問題を扱うと、センセーショナルな内容面ばかりに注目されてしまうことがあるので、倫理的価値判断を下させるものにするにはさらなる工夫が必要だと考えております。

私はその工夫の一つとして、トロッコ問題を扱った直後の生命倫理の授業で、実際にあったトリアージに関する事例を扱うことにしています。その際トリアージ的な考え方で優先順位をつけさせたあとに、カントの義務論の考え方を示すことで、社会で起こっていることが絶対的・普遍的な正解になるとは限らないということに気づかせます。このことは、大項目Bの学びの視点としても重要だと思っています。正解のない状況で、当たり前を疑わせたり、「本当にこれで正しいのか、これが正解とされている背景には何があるのか」を考えさせたりすることがすごく大切です。そうすることで大項目Cの探究へと続く授業の流れになるのではないか、と考えます。

実践(2)

続いての実践は「探究」的な学びの見通しをもたせるもので、経験論と合理論を扱いました。

帰納法と演繹法を活用して考えを深めていく授業です。生徒に、いくつかの社会的事象について「たぶんこうなんじゃないか」「実はこうなんじゃないか」という自分の考えを提出させます。そして、「この説はどうしたら立証したということになるのか」を考えさせます。このような活動では、生徒は「調査方法」を考えがちですが、調査方法ではなく純粋な論理として「どんなことが明らかになればいいのか」を問います。そのうえで、授業で考えた立証方法は帰納法・演繹法どちらを活用したものなのか、帰納法であればイドラは排除できているか、演繹法であれば方法的懐疑ができているかなどを考えさせます。立証方法を考えさせることで「そもそも仮説をどのようなものにするべきだったのか」を振り返らせます。

まとめとして、「演繹法」「帰納法」に並ぶ推論法として「アブダクション」を紹介し、過度な懐疑論に陥らず、想像力を発揮して活き活きと仮説を形成していくことの大切さも示しました。この授業のあと、担当学年の「総合的な探究の時間」を1クラス1コマ担当する機会がありました。その時にこの授業を思い出させて、「調べて終わりではなく、適切な立証方法が立てられる仮説を吟味しましょう」という声かけにつなげられました。

終わりに

「現場の私たちがどうあるべきか」を考えると、「間違いを恐れずにやってみる」ということが大事だと思います。「公共ってどうしたら正解なんだろう」と不安になっている方もいらっしゃると思いますが、目の前の生徒をみて「こうしてあげるのがいいかな」と先生が仮説をもって自分なりに実践した授業は、正解でなくても大きな価値があると思います。私は、今日は発表者ですが、参加者としてこのような勉強会に参加するときに、今までは正解を求めて参加していたように思います。しかし、教えてもらうだけで正解が導けるわけではなく、「自分も探究者にならなければいけない」と最近は考えています。生徒に何かを教えるときも、自分が探究者になってデモンストレーションを示していくと説明そのものが効率的になっていきますし、生徒に熱が伝わるということもあると思います。今回の発表で皆さまが少しでも「何かやってみよう」という気持ちになっていただけたら嬉しいです。

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研究会を終えて

本研究会にご参加いただいた先生方からご感想をいただきました。

導入校の声
北海道・東北地区
H高等学校
S先生

教科書を全て終わらせるのではなく、資質能力を伸ばすという考え方に自信を持てなかったですが、先生方のお話を伺って自信を持って進めていこうと思いました。

導入校の声
関西(近畿)地区
F高等学校
F先生

どの科目もまだ担当していなくて不安が多いが、先生方は前向きに取り組まれており、刺激になりました。今後もこのような研究会を開催して欲しいです。

導入校の声
北海道・東北地区
T高等学校
I先生

教育委員会の主催する研究会とはひと味違う形で、具体的な授業実践を踏まえ内容で大変良かったです。今後の授業実践に活かすことのできる研修機会でした。


2022年11月 5日 取材
2022年12月19日 公開

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