- 指導事例 vol.024
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さまざまな学校課題や指導テーマに対して指導を工夫されている先生方に取材を行い、その実践をご紹介する連載企画「指導事例」。
一年を通じた低学年指導についての状況やご指導事例をお伺いするため、昨年度高校3年生をご指導された現1年生ご担当の先生方3名による年間3回(予定)の座談会を企画しました。第2回目の今回は、1年生後半のご指導や、模試や冬休みなど節目でのご指導を中心にお話をうかがいました。これからの共通テスト・進路実現に向けた高校低学年指導のご参考になれば幸いです。
【低学年】低学年指導 座談会 第二回
01. 1年生後半の重要性
進路を見据えた文理選択を促すためにオープンキャンパスやイベントを活用
- 進行役
- 1年生後半では文理選択があると思いますが、文理選択やそのための進路指導についてはどのように意識されていますか?
- 渡邊先生(数学)
- もともと神奈川県は他県にくらべると進路指導に割く時間が少なく、三者面談もありませんでした。その中で私の前任校が積極的に進路指導を始めた高校でした。私自身が高校生の時に受けた指導とは異なっていましたが、『進路指導をすることで生徒は伸ばせる』という感覚を持つことができました。
具体的には、普段から生徒に『先を見越して行動する』というような話をするように意識しています。また、オープンキャンパスにも積極的に参加させ、違う分野の話を聞かせるために文系・理系の2校は必ず参加するように促しています。夏休み明けに文理選択をするので、そこの判断は確実にしてほしいと思っているからです。
首都圏は私立大学が多く、キャンパスの位置だけで進路を左右させてしまうこともあります。アクセスしやすさだけでなく、生徒自身が本当に行きたい大学や学部を見つけていける進路指導をしていきたいと感じています。
- 佐藤先生(英語)
- 本校学(大分県立大分舞鶴高等学校)は九州ですが、首都圏の大学を選択する生徒が少ないのが現状です。特にコロナ禍で、その傾向が強くなっていると思います。まずは地元の大分大学・九州大学がスタートの目標基準でいいと思うのですが、そこからさらに視野を広げていければと思っています。
そのために、『夢ナビライブ』(※1)に1~2年生で参加するようにしています。大学のエースの講義が一度に聞けるので面白いですし、進路選択のきっかけとなる絶好の機会だと考えています。課題研究にも役立ちます。
進学先は地元(大分県)でいい、と考えている生徒も、九州大や東京の大学に行ける可能性もあれば提示します。教員から伝えた言葉は特に真剣に捉えて考えてくれる生徒も多いからこそ、教員自身も進路指導について勉強していかないといけないと感じています。
※1 株式会社フロムページが主催する日本最大級の大学進学イベント。コロナ禍ではオンラインで開催。
- 平野先生(国語)
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本校(岡山県立岡山操山高等学校)でも、1年生の夏休みに進路指導課からの課題という位置づけでオープンキャンパスへの参加を強く促しています。
入学直後から「志望校」を考えさせ始めるので、「とりあえず岡山大」と考えている生徒の視野を広げさせることから始まるイメージです。
得意教科、不得意教科で進路や学部を選ぶのではなく、興味関心のある領域や学問から逆算させて志望形成させています。
2学期の教科面では、問題への取り組み方など学習方法の獲得
- 進行役
- 1年生も後半となる2学期の教科面の指導で意識されていることはありますか?
- 渡邊先生(数学)
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これまでとあまり大きく変わらないのかな、と思っています。すべて基本のキの字からスタートすることは意識しています。
また、生徒同士がお互いの考えを共有する時間を大事にしていて、1コマのうち10分、生徒同士で共有して、わかっている生徒が他の生徒に教えるなどの時間を取っています。そのことで、思考回路が安定するのではないかと思っています。
個人的には、数学はセンター試験時代の過去問がいいと思い、渡して解かせています。満遍なく様々な単元より出題されていて、理解できているかどうかで手が止まるので、わかりやすいと感じます。
- 平野先生(国語)
- 共通テストでは、単純暗記やテクニック的なものは通じにくくなっていると思うので、『なぜそれを覚える必要があるのか』、『なぜその方法が有効なのか』という点をしっかり理解させる必要があると感じています。
そのような意味では、作問者の視点を獲得させるために生徒達に問題を作らせてみたり、理解できているかどうかを他の人に説明させることで確かめたり、という活動が大切かもしれません。特に本校では、古文の担当者が生徒による作問を日常的な学習にうまく取り入れていると感じます。
- 佐藤先生(英語)
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学習習慣はもちろん、学習方法を習得してほしいと考えています。そのために、自分で考えて自分のレベルに合った課題を選択させるようにしています。
2学期はアンケートを資料の一つとして面談をしていきたいと考えています。文理選択、学期の節目などは『面談のチャンス』だと捉えています。
また、共通テストは1年生でも解けるので、積極的に解かせています。1年はタイムプレッシャーをかけず、丁寧に英文を読み切ることを教えています。ここで『ざっと読めればいい』と思わせないようにするためです。丁寧に英文を読む意識を1年生~2年前半までにつけていきたいと考えています。
02. 11月模試の位置づけ
高校生としての学習習慣が表れる時。教員としてはここであげていきたい
- 進行役
- 11月模試の位置づけとはどのようなものでしょうか?
- 佐藤先生(英語)
- 模試は『1年の秋に上げる』というのはセオリーだと思います。7月はこうだったから、11月ではここまでもっていきたい、とチームで共有しています。週テストや日々の取り組みをそこに向けて作成しています。教員はきめ細やかに、一人一人の上昇・下降を見ていきます。
- 渡邊先生(数学)
- 普段の定期テストも偏差値化していますので、その推移を三年間記録しています。その際、教科の学力バランスは見えるものの、単元の強弱はわかりにくいことがあります。だからこそ、模試に関しては、『自分の弱点探し』ができるものだと考えています。生徒自身も、成績自体というよりも、自分のことを分析しようと考えている傾向が強いように感じています。
- 平野先生(国語)
- 11月模試は、中学までの貯金が使える7月模試と違い、高校生としての学習習慣が表れる回だと思うので、佐藤先生と同じ感覚です。先生の中には、各回の模試で教科書をどこまで進めておく必要があるか、ということはチェックして計画を立てられている先生もいらっしゃるようです。
模試は「全国大会」「到達度を測る指標」。取り組み方や事後の扱いを丁寧に指導している
- 進行役
- 模試に関して、生徒への声かけはどのようにされていますか? 秋に上げる、というようなことは直接伝えることもあるのでしょうか?
- 佐藤先生(英語)
- こちらからは生徒に直接言わず、生徒には模試を意識させすぎないようにしています。模試で偏差値を無理にあげようと努力したのではなく、自然といい結果が出ちゃった、というような感覚を持ってほしいです。ただ、教員側は常に真剣です。
- 渡邊先生(数学)
- 大学入試を見すえると模試の位置づけは重要だと考えています。模試は、間違いなく『到達度を測る一つの指標』だと思います。絶対に雑に扱ってほしくありません。1年生のうちから模試を大事にし、記録を取らせていき、教員側もそれにコメントしていきます。
- 平野先生(国語)
- 模試の直前に、直接的な対策はしていません。ただ、校外模試は『全国大会』なので、体調を整え授業やテストの振り返りをして臨ませ、何となく受けさせないことが重要だと思っています。
03. 冬休みの過ごし方と1月模試に向けた指導
長期休暇で一番難しい冬休み。1年生のうちに失敗する経験や自走の体験も
- 進行役
- 冬休みの目標設定などあれば教えてください。
- 渡邊先生(数学)
- 普段から課題が多いので、冬休みは解放させてあげたいという気持ちを持っています。その中で、どれくらい自分で管理できるかも重要だと思います。ただ、冬休み明けもテストがありますので、それに向けて自分で考えて対策していてほしいと思います。「ダメでもかまわないから、とにかくやってみて自分を知る」というように、自分の課題を知って、次に改善すること。学習習慣はできているけど、計画ができていないとか。
- 佐藤先生(英語)
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長期休暇の中で冬休みが一番難しいですよね。冬休みはクリスマスや正月などのイベントも多くなりますので、特に低学年は勉強しづらい。
ただ、冬休みの計画自体は行いますので、生徒によっては、その通りにはいかなかった体験をすることも大事かもしれません。
長期休暇の記録も難しいと思っていたのですが、本校の2年生の先生が夏休みにICTを活用した日々の学習記録を生徒と日々共有していて、とてもよかったです。ICTの活用もしていけたらと考えています。
- 平野先生(国語)
- 学習のリズム、ペースメイキングをきっちりして、素材を替えながら知識や読むことの経験を蓄積させたいです。夏休みには、画像録画による音読提出も上手くいったので、冬休みにもするかもしれません。
1月模試は難易度が変わるが学習時間は少ない。目的に絞った冬課題を出したい
- 進行役
- 一方で1月模試も迫る時期ですよね。模試を学習に取り入れる方法などもあれば教えてください。
- 渡邊先生(数学)
- 土曜講習では模試の過去問をよく扱っていました。模試は、そのような使い方もできるかなと思っています。
- 佐藤先生(英語)
- 1月の進研模試は、難易度もぐっと変わりますが、形式や解き方に慣れる機会も少ないと感じます。冬休みはモチベ―ション低くなりがちなので、ある程度絞り、模試に関する課題を取り入れることも検討しています。そうすれば、生徒も興味が持ちやすいのかなと考えています。
※進行役より…取材後、佐藤先生より「長文読解と英作文」に絞った問題集をオーダーシステムで制作したとお教えいただきました。2年生7月の進研模試過去問題の長文も収録し、先を見据えてチャレンジができる内容にされているとのことです。
04. 1年生終了時点の目標(まとめ)
学習習慣の確立と、学習方法の獲得
- 進行役
- 前回は、1年生最初の『学習習慣の確立』や『高校生にする』というようなキーワードも出てきましたが、先生方は1年生のゴールはどのような状態だと考えていますか?
- 佐藤先生(英語)
- 全体では少し難しいのですが、教科としては、「単語テストは満点を目指していますか?」などアンケートにある学習姿勢や学習方法などの質問に対して、「はい」の割合が85~90%の状態まで持って行きたいと考えています。 なぜかというと、『学習方法を獲得させる』ことが、1年生のゴールだと感じているからです。自分なりの効率の良さを掴んでいってほしいと感じています。
- 渡邊先生(数学)
- 1年生の中で必要なのは、『学習習慣の確立』『学習方法の獲得』だと思います。これはやらなければいけないことではないでしょうか。
また、課題を学習していれば力はつきますが、みんなが同じエスカレーターに乗っていては周りと変わりません。自分で走る『自走』も大事だと思います。 それに加え、共に走る『共走』も大事にしてほしいと感じていて、共に伸びようと思える関係性も学年でつくっていきたいと思っています。よい関係性が築ければ、自分と同時に、周りも高めていけると感じているからです。
- 平野先生(国語)
- 漢文に関しては1年生の終わりまでで共通テストレベルの問題にかなり対応可能になりますので、2年、3年は経験を積ませる期間に、という状況にできることが、1年3学期のゴールかと思います。
すでに課題のワークと参考書の準拠ノートについては、冬休みも含めて3学期最後までスケジューリング出来ています。
今日のお話をお聞きしていて、ICTで学習状況が担任に見えるだけでなく、生徒間でも見える仕組みも作れれば、相互に刺激し合って勉強できるかもしれませんね。少し考えてみようかな、と思いました。
- 進行役
- とても参考になりました。先生方、本日はありがとうございました。このメンバーでの座談会は今後も定期的に実施していきます。次回もよろしくおねがいします。
学校紹介
1学年約270名、2020年度のおもな進路状況:国公立大148名、(うち難関国立大34名)
神奈川県立鎌倉高等学校
1学年約320名、2020年度のおもな進路状況:国公立大 36名(うち難関国立大 2名)
大分県立大分舞鶴高等学校
1学年約320名、2020年度のおもな進路状況:国公立大 225名(うち難関国立大 21名)
編集後記
2021年11月 取材
2021年12月21日 公開
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守安
入学したての1年前半期とは異なり、後半期では高校生としての学習の深まりをお聞きかせいただきました。
同じ長期休暇でも夏休みとは位置づけが異なり、短くてイベントの多い冬休みならではの学習機会の活かし方があるということ、とても勉強になりました!
三名の先生方、誠にありがとうございました!引き続き、宜しくお願い致します!