研究会レポート(今未来手帳)『学びに向かう力の育成とその評価について考える』

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研究会の詳細

2022年10月13日(木)、岡山大学准教授中山芳一先生と、福井県立丸岡高等学校みらい共創コース長小林直彦先生をお招きし、オンラインにて『学びに向かう力の育成とその評価について考える』を開催いたしました。ご講演とご対談の内容をレポートいたします。

講師紹介

中山 芳一(ナカヤマ ヨシカズ)先生
岡山大学教育推進機構 准教授(教育方法学)。
「今未来手帳」監修者。岡山県教委夢育アドバイザー。初年次キャリア教育を岡山大学全1年生に提供。近著(共著)『「ドラゴン桜」に学ぶやりたくないことでも結果を出す技術 東大メンタル』は、出版後数週間で再版。2018年に発刊された著書「学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす」は2022年現在、七版に至る。全国の中・高校で「学びに向かう力」の育成とその評価に関し、日々支援している。

小林 直彦(コバヤシ ナオヒコ)先生
福井県立丸岡高等学校 みらい共創コース長。
上級CST(コア・サイエンス・ティーチャー)・2030SDGsゲーム公認ファシリテーター。2016年度から活用している「今未来手帳(カスタマイズ版)」で、メタ認知能力および自己管理能力の育成に取り組む。今年度からは新コースを設置、新たに学校設定教科「みらい」をスタートさせる。昨年度から導入されたひとり一台のChromebookも本格的な活用が始まり、手帳(手書き)とICTを相補的に活用した指導に取り組み、その事例や有効性をもとに、新教育課程で重要視される「学びに向かう力」をICT×手書きの活用でどう育成するかを日々現場で実践・研究している。

研究会レポート

講演の主な内容

  • 非認知能力の育成と評価の視点から(中山芳一先生)
  • 「今未来手帳」とICTを併用した実践について(小林直彦先生)
  • 中山芳一先生×小林直彦先生 ご対談

非認知能力の育成と評価の視点から(中山芳一先生)

「非認知能力」について

まず中山先生から、狭義の学力など客観的な点数にできる力である認知能力に対して、非認知能力は主観的な点数にすることは可能だが客観的な点数にできない力であること。そして、新しい学習指導要領は、非認知能力に厚みのある3つの柱の力として、「学びに向かう力(非認知能力)」「知識・技能(認知能力)」「思考力・判断力・表現力(認知&非認知能力)」をあげていることをお話しいただきました。

非認知能力を意識した大学入試

大学入試でも、小論文、プレゼンテーション、ディスカッションを必要とするなど、非認知能力を意識した出題に変わり始めているそうです。教育大学の例では、中山先生の著書である「学力テストで測れない非認知能力は子どもを伸ばす」の一部を引用し、自身が教職に就いたらどのように生徒に関わっていくかという内容を問う小論文問題が出題されました。インプットのみ続けた生徒にはハードルが高い問題が増え、今後はさらにその傾向が高まっていくだろうとお感じになっているそうです。

生徒の非認知能力を育成するために

人の内面はベースから「気質、性格、基本特性」「価値観」「自己認識」「行動特性」「行動」の順で三角形を描き、一番変えやすいのは「行動」です。しかし、行動だけを変えたとしてもそれは本質の変化ではなく、「価値観」「自己認識」「行動特性」に働きかけをしていきたいそうです。その中で自分を客観的に振り返ることのできる効果的な振り返り方法が大事で、AAR (行動、見通し、振り返り)サイクルを回す取り組みを作るとよいとお伝えいただきました。

生徒の非認知能力を評価するために

評価するときには、まず生徒の現状を把握すること。そして評価は「主体的に学習できたかどうか」を教師が主観的に評価するのではなく、生徒の学習過程を生徒自身が言語化できているか(振り返りの質)を評価することが重要です。言語化するための認知能力と振り返り習慣の両方が必要で、量×質でより効果的に振り返りの質を高めていけるそうです。

振り返りにこだわり続けてきた「今未来手帳」では独自開発した振り返り専用のルーブリックによって生徒たちが量×質の振り返りを自走&習慣化できる仕組みになっているとお伝えいただきました。

「今未来手帳」とICTを併用した実践について(小林直彦先生)

生徒が自発的に使おうとする場面を作る仕掛けを ~「今未来手帳」の導入と課題~

小林先生の勤務されている福井県立丸岡高等学校(以下、丸岡高校)は、昨年、15%の生徒が国公立大学へ進学し、過去四年の中で最も多い実績になったそうです。「今未来手帳」は2016年度に導入し、2022年には「活動記録BOOK」も導入しました。これまで、教員間で目的や使いかたを共有、生徒対象の講演会もしていますが、利用率がうまくあがりきっていない状況もあるそうです。

生徒にアンケートを取ったところ、「使っていない理由」として、「使わなくても不便さを感じない」が65%という結果が出ました。先生は、学校自体に手帳が必要となる場面が少なく、生徒が自発的に使おうとする場面を作る仕掛けが効果的ではないかとお感じになっているそうです。

ICTを併用した取り組み

丸岡高校では、決められたカリキュラムだけでなく、選択したり刺激を受けたりする機会を増やせるように学校設定教科「みらい」を新設されたそうです。「みらい」は自分の興味関心に合わせて受講する講座をいくつでも選択できる仕組みにされたそうです。この履修形態のため、生徒には計画性や自己管理能力が求められます。また講座の受講登録、受講後の報告書の入力、提出などはクラスルームでおこなうそうです。

そのため「今未来手帳」では、スケジューリングや受講内容をメモし、「ICT(クラスルーム)」では講座の申し込みや報告書の入力、提出をするというように、手帳を使わせようとするのではなく「みらい」という授業を通して自発的に使おうとする場面を増やそうとされているそうです。「みらい」と「今未来手帳」、そして「ICT」の相補的な活用を通して、精神年齢+3歳を目標に、非認知能力の高い生徒に育ってほしいとお話しいただきました。

中山芳一先生×小林直彦先生 ご対談

ご講演いただいた中山芳一先生と小林直彦先生に「非認知能力を高める取り組み」についてご対談いただきました。

中山先生
丸岡高校の「みらい」で選択できる環境を作っているところは高大接続の視点からも、素晴らしい取り組みですね。意欲・自立は、非認知能力にプラスの影響を与えることができます。「みらい」の取り組みは「自分で選択をする責任」であり、精神年齢+3歳の目標ともつじつまが合っていると思います。
小林先生
確かに自分で選択しているので途中で講座を辞める生徒がいません。大変だと思っても続けていて、自分で選ぶことで責任感がついてきていると感じています。
中山先生
報告書を書くという段階になった時、「自分が意識できたこと」のような内面に関わる報告もしているんですか?
小林先生
受講内容、学んだこと、これから活かしたいことを報告書に書くことが決まっています。学んだこととこれから活かしたいことには内面が入っていると思います。
中山先生
私は現在、大学生が就職する際のサポートもしていますが、学生時代に最も力を入れたことや自己PR、経験してきたことの中に、内面をエッセンスとして入れ込めるかどうかが重要なポイントだと思っています。報告書で内面を客観的にどう見て捉えたかを言語化して振り返り、自分の言葉で書けるようになるとすごくいいと思いました。「今未来手帳」の日々の振りかえりの価値もそこに生まれてくると思います。お話をお聞きして、「今未来手帳」の枠の中に「自分のその日の内面」を書いておくことによって、報告書に反映させていくこともできるのではないか、と思いました。
小林先生
私もまだまだ「今未来手帳」でできることはあると思っています。もっと上手に使って、振り返りの質を高めていきたいです。
中山先生
福井県や秋田県は学力の高い県として有名ですが、「自主勉」を有効に活用していると思います。「自主勉」は自分で選択して、自分の言葉で取り組んでいくこと。丸岡高校の「みらい」と連動する考えではないでしょうか。さらに振り返りに「今未来手帳」を活用して報告書を作っていくと、非認知能力を伸ばすことにもつながっていくと感じます。その際、アナログやデジタルの長所をそれぞれうまく活用していきたいですね。

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研究会を終えて

本研究会にご参加いただいた先生方からご感想をいただきました。

導入校の声
九州・沖縄地区
K高等学校
Y先生

日記がそんなに重要とは思ってもみなかったです。書くことの大切さを改めて実感しました。学びに向かう力のポイント制による評価はとても参考になりました。

導入校の声
中国地区
T高等学校
M先生

手帳を活用して自己の振り返りさせ、見通しを立てさせることは生徒にとって有効だと考えました。今未来手帳を通じた具体的な指導が聞けたので参考になりました。

導入校の声
関西(近畿)地区
O高等学校
O先生

丸岡高校の取り組みが面白いと思いました。自分の学校でも選択して受講できる授業を作りたくなりました。特色ある学校づくりを行う上で参考にさせてもらおうと思いました。


2022年10月 開催
2022年12月 2日 公開

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